エランコジャパン株式会社より牛用抗原虫剤(ジクラズリル製剤)「ベコクサン®」 の承継についてのお知らせ
MSDアニマルヘルス株式会社は2020年11月1日エランコジャパン株式会社より牛用抗原虫剤(ジクラズリル製剤)「ベコクサン®」 を承継しましたのでお知らせ致します。
ベコクサンは子牛に単回経口投与して用いる懸濁液剤で、主成分としてジクラズリルを本品 1mL 当たり2.5mg含有する。本品は子牛におけるコクシジウム症の発症防止及び治療に有効である。諸外国においては子羊の抗コクシジウム剤としても承認されている。
ベコクサンは国内では【効能効果】牛のEimeria属原虫によるコクシジウム症の治療、牛のEimeria属原虫によるコクシジウム症の発症防止【用法用量】牛(3ヵ月齢を超える牛を除く):体重1kg当たりジクラズリルとして1mg(製剤0.4mL)を単回経口投与する。【使用禁止期間】 牛(生後3月を超えるものを除く。):食用に供するためにと殺する前1日間として2017年4月25日承認されている。
ジクラズリルは、ベンゼンアセトニトリルの誘導体である。その効果は Eimeria 属全般(鶏,七面鳥, ウサギ,反芻動物のコクシジウム)に対して認められており、特に無性生殖期である第1及び第2シゾント(メロント)並びに有性生殖期であるガモントに変性を起こすと言われている。ジクラズリル投与後、第1及び第2シゾントでは内部構造の消失、多数の細胞質内小胞形成及び不完全なシゾント形成で特徴付けられる甚大な変性変化が認められ、最終的にはコクシジウムによるオーシスト形成を阻害することにより作用する。ジクラズリルの抗コクシジウム作用は、コクシジウムのエネルギー源となるアミロペクチンのような多糖類の合成を阻害することが示唆されている。また、ジクラズリルはメロゾイトのミトコンドリアの膜電位を変化させることにより外膜の透過性を変化させたり、原虫のアポトーシスを引き起こす。これはミトコンドリアや原虫の特異的な細胞器官における mRNA の発現のダウンレギュレーションによると考えられる。ミクロネームやロプトリーを含むこれらの先端にある細胞器官は原虫の運動性や宿主細胞への侵入に関与する。ヒートショックタンパク質を含むミクロネームタンパク質は原虫細胞の恒常性維持や宿主細胞への侵入及び宿主細胞環境内における原虫細胞の保護に重要な役割を果たすと考えられている。そのため、原虫細胞におけるこれらのタンパク質の変化は原虫の機能障害を引き起こし、ミトコンドリア依存性の細胞死に発展すると考えられる。
子牛の下痢を起こす疾病としては、ロタウイルス病、コロナウイルス病、大腸菌症、クリプトスポリジム症等が知られており、下痢症は子牛における死廃事故の主要な原因の一つとなっている。その中で牛コクシジウム症は最も重要な原因の一つと言われ、経済的損失も非常に大きいことが報告されている。牛コクシジウムの国内の汚染率は44~59%であり、感染牛の5%が臨床症状を発現するといわれている。その汚染率は都道府県別で大きな差はなく、Eimeria属の種別にみても、種間の汚染率に都道府県別で大きな差はみられていない。近年の肉牛及び乳牛の生産農家における規模拡大により、その発生は増加の傾向にあり、農林水産省の家畜衛生週報に報告されているものだけでも毎年100例以上の発生が認められていることから,日本においても諸外国同様コクシジウム症による被害は大きく、その経済的損失は非常に大きいと考えられる。
ベコクサンは既承認のトルトラズリルと同系統の抗コクシジウム剤であるが、牛コクシジウム症の発症防止だけでなく、治療薬としても有効である。しかしながら、サルファ剤のような抗菌活性はないことから、二次的な細菌感染により重篤となる場合は適切な抗菌剤の併用や輸液等が必要である。本品は牛に経口投与した際に吸収はされるが、ほとんどが腸管内にとどまり、牛の生体での残留性が非常に低いことも特徴の一つである。このことから、食用動物である牛に安全に使用でき、食品への残留性も少ないため、短期間の休薬によっても食品安全性が担保される。また、サルファ剤で報告されているような腎毒性もなく、単回経口投与であり、対象動物である牛に安全で、作業上の手間も最小限で使用することができる。以上のことから、本品は日本における新たな資材として、現場での選択肢を増やす意味でも有用であると考える。
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